泣いたら、泣くから。
気づかなかった。
気づける余裕もなかったけれど、いったいいつ来たのだろう。
いやそれより。
早くなにか、言わないと。
無言でいることは、奏斗の言葉を肯定しているようではないか。
しかし、そう頭ではわかるのに、開いた口からはなんの音も出てこない。
奏斗が抱く不信感をぬぐい取るなにかを、とにかく声を、出さなければ。
けれど、やはりわたしの意に反して喉からは何一つ音が上がってきてくれなかった。
もし、あの夜のことをすべて聞かれていたのだとしたら。
――私が一番、叔父さんのことを想ってる。
「俺は、義兄さんを信じてる。……ううん」
奏斗は自分で言ったことを否定するため首を振った。
そして顔を下げたまま訴えるように吐き出した。
「信じたい……。義兄さんは、姉貴を裏切ったりなんかしないって」
信じたい。
それはつまり、わたしのことを信じ切れてはいないということだ。
願望の意。
信じてはいるけれど、心のどこかで揺らぐところがあるのだろう。
無理はない。
姪が言ったあと、私はまともな否定の言葉を返せなかったから。
頬に触れた姪の唇の感触を思い出す。
不意に近づいた姪が落としていった、触れたのかどうかもわからないほどに弱く淡い熱を、わたしはまだ覚えている。そして、
動揺して、なにも言えなくなったこともちゃんと。
――私が一番、叔父さんのことを想ってる。
そのとき、わたしはふと思った。
――……動揺? いったい、なにに対して?
姪の一言にたいして?
心の内で首を振る。その問いにはなぜか違和感を覚えた。
ならば、
なににたいする動揺なのだろう……――。
なにも言えなくなったことは事実。
でも、その裏でわたしは、本当のところでは、どう思っていたのだろう。
姪の気持ちを受け止めたいと、一瞬でもそう願ってしまったのだろうか。
ふと思いついてぎょっとした。
だからわたしは――。