泣いたら、泣くから。
「じゃあ俺行くから。また寄らせてもらう」
「ああ。――水分補給、忘れずにね」
「わかってるよ。義兄さんこそ、ちゃんと飯食えよな。顔、真っ白だぜ」
「…気をつけるよ」
逆にわたしのほうが心配されてしまった。
奏斗は出来る青年だ。おじさんからの心配など余計なお世話にすぎないだろう。
自転車にまたがる奏斗を見下ろす。
わたしだけには言われたくないと言い張る奏斗だが、彼もかなり細い体型をしている。
俺には筋肉があるからと割れた腹筋を見せられたことをふと思い出した。
夕陽に照らされ、橙色に輝く奏斗の背を見つめながら、胸の奥でわたしは呟く。
奏斗はあれほど、健康そのものなのに、どうして君は……――。
どこかでカラスが鳴いた。
――……いや、やめよう。今さらどうすることも出来ないのだ。
時間は、戻らないのだから。
わたしは一度深呼吸をすると、踵を返して中に戻った。