泣いたら、泣くから。
今、奏斗の問いに答えが出せないのは驚きすぎたあまり、というのは自分を偽る嘘なのかもしれない。
それはつまり、
奏斗の言葉が真実だということ――。
わたしは、どこかで姪のことを受け入れたいと、そう思い始めているのかもしれない。
だからあの夜、姪の声を聞いて、姪の目を見つめて、自分の心がざわついているのに気づいて動揺した。
踏み入れてはいけない場所へ、足を出しかけようとする自分を見つけたから。
真由の視線を背中に感じながらも、わたしの視線は遠くに立つ姪に吸い寄せられるように向かっていく。
"逃げる"ためじゃない。けっして、逃げたいのではない。
姪と気持ちを共有できたら苦しまずに済む。楽になれる。
そんなことは微塵にも思ってはいない。
わたしの望む道の先に、姪の姿がある気がするのだ。
奏斗の言う「姉貴を裏切る」とは、
わたしが、望むままに歩き続けたら――ということなのだろう。
その先に待つ現実は、楽なんかじゃきっとない。
考えなくても、過酷で、想像できないほど困難のある未来だとは手に取るようにわかる。
だからこそ、姪の気持ちを受け入れたいと思うのなら、わたしが姪の進む道を歪めるわけにはいかない。
それが叔父として出来る姪の思いにたいする最良の応え方だろう。
歩む道の隣に、わたしはいないこと。きっとそれが、一番いいのだ。
「わたしは、真由を今でも大事に思っているよ」
嘘じゃない。
真由は今でも、わたしが心から愛したたった一人の女性だ。
そして、これからも変わることはないだろう。
奏斗の顔に安堵の色が浮かんだ。
「ほんとに?」
「ああもちろん」
頷くと、奏斗はわずかに微笑んで、だがすぐ笑みを消してわたしを見た。
「ならもう、あいつには会わないで欲しい」