泣いたら、泣くから。
そう言うと、おもむろに姪は小さなファイルをカバンから取り出してわたしに差し出した。
女の子らしいピンクと赤のチェック柄がプリントされたつるつるした素材のファイルだった。
「なんだい、これ」
「フォトブック。小さい頃からずっとため込んできた私の歴史……みたいなもの」
自然、開こうと指を挟み入れると、さっと姪の手が伸びてそれを制した。
「み、見るのは私が帰ってからにして」
「どうして」
「私のちっちゃいときのも残ってるかもしれないから……っ」
かすかに頬を赤らめて恥ずかしげに姪は言った。
「いろんな写真混ざってて、一応確認して私のは抜いてきたつもりだけど残ってたらそれは捨ててくれてOKだから。てか、叔父さんが叔母さんの写ってる写真抜いたらファイルごと捨てて」
「こんな大事なもの受け取れないよ。ましてや捨てるなんて」
わたしの言葉に姪は勢いよく首を振った。「いいの」
「捨ててくれて全然かまわないから。思いっきり燃えるゴミの日出してくれてよし」
「だけど……」
「捨てていいから」
「でも」
「いいから」
この流れ。
なにがなんでも自分の意見を押しつけようとするとき出る姪の繰り返し攻撃。
こうなるともうわたしに断れる術はない。
あきらめてため息をつく。
「……わかったよ」
苦笑しながら返事をすると、思いがけず姪は「ありがとう」と言った。
「ありがとね、叔父さん」
「別に礼を言われることじゃないよ」
「そうかな? ――まあいいや。あとね、今日は話したいことがあるの」
「話したいこと?」
ファイルの大きさには釣り合わないほどパンパンにふくれたそれを両手で掴みながらわたしは首を傾げた。
姪は頷き、わたしから視線を外すとわずかに目を細め、あてどもなく見つめた。
「私の、病気のこと――」