泣いたら、泣くから。


 諦め気味に、姪は短く言い捨てた。
 その目は、ここではなく、わたしには見えないどこかに向けられているようだった。


「一花ちゃん……」


 触れてはいけないと頭ではわかっているのに、体は正直で、わたしの手は姪へと伸びていく。
 触れたら、壊れてしまうかもしれない。
 そう思えるほど、儚く、脆くうつる姪の白い頬。

 だからこそ余計に、体は命令を無視して素直を押し通しはじめる――。

 と、そのとき。
 自分の顔を隠そうとしたのか、わたしの手を制そうとしたのか、姪は細い指を二人の間に掲げた。


「そんな顔しないで」


 指の間からのぞく姪は、わずかに眉を寄せて笑っていた。 


「心配しないでいいんだよ。悪くなったっていってもどのくらいかなんかわかんないんだから。もしかしたら今だけの、その、疲れが出ただけかもしれないし。慢性的って言ったでしょ。こんなことだってあるよ」


 だから、元の波に戻ることだってあり得るじゃない。


 余計な心配をかけまいと必死に説明するけれど、姪の言葉はあっさりと耳を通り抜けていった。
 苦し紛れに引きつるその笑顔が、無理をしている姪の心をそのまま反映していた。

 姪は、顔に出やすい子だ。


 わかりやすすぎるから、逆に本心を隠されると、こちらが辛い。



「……いまは、なんともないのかい?」
「うん、平気。むしろ、叔父さんと一緒にいるからかな。いつもよりいい感じ。――って、駄目だね。こんな事言ったらますます叔父さん困らせるよね。ごめん。今日はお別れを言いに来たのに」
「いや……」


 ちろっと舌を出して姪は苦笑した。


 姪の言葉に、胸が痛くなった。

 わたしは、なにを言ってあげられるのだろう。
 その表情からは計り知れないほど、姪の心は悲しみや苦しみでいっぱいのはずなのに、言ってあげたいと望む言葉は何一つ口に出来ない。

 叔父として姪にしてあげられること。奏斗と誓った約束。


 自分でしばり付けた呪縛を、自ら破ることは出来ない。破ってはいけない――。



「私、そろそろ帰るね」



 
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