泣いたら、泣くから。
三章-4
日曜日の午前――。
驚いたことに、その日の咲希は一人ではなかった。
男を連れていた。
「本当に病気だったんだな」
改めて納得したとでも言うようにしみじみ呟いたのは、叔父の妻の弟、奏斗だった。
ジーンズにシャツにネクタイというシンプルな私服姿の奏斗は学生服姿のときより幼く見え、新鮮だった。
「私、花飾ってくるね」と、花瓶を持って病室を出て行った咲希を見送り、二人だけが残された。
お互いなにも言わず、なんとも言えぬ空気が部屋中に満ちる。
病室はナースステーションから遠いため、たいして物音もしない。
不意に奏斗が動いた。
窓に近づいた奏斗は枯れ葉が積もる地面を見下ろしていた。
「……なにしに来たの? わざわざ確認しにこんなとこまで?」
屋上で追い詰められたあの切迫した状況の中、私が嘘をついたと思ったのだろうか。
それにしても、よく咲希が病院に連れて行くことを承諾したものだ。
あのあと、彼女は学校の廊下ですれ違うたび奏斗をこれでもかというほど睨み付けていたはずなのに。
「違う。連れてこられたんだ」
私は目を見開いた。
奏斗は、いま、なんと言った? 連れてこられた?
咲希が、奏斗を誘ったということなのか。
「ど、どうして咲希が柴崎を」
「知るか。昨日の部活あとにいきなりあいつが来て「明日暇だろ。付き合え」っつーから、仕方なく」
「そう……」
咲希の考えていることはどうにも読めない。
奏斗は窓から目を離し――「おい」ある一点を見つめて私を呼んだ。