泣いたら、泣くから。
「そうか」
「うん」
奏斗がどんな顔をしているのか、どんな表情をしているのか、自分の指を見ていた私にはわからなかった。
返ってきた声にとくに感情は込められていなかった気がするけれど。
胸の中では、奏斗はどう思っているのだろう。
喜んでいるだろうか、やっぱり。
それとも、似合わず同情などしてくれているだろうか。
――まあ、今となればどちらでもいいけれど。
彼の望む方へ私は足を向けた。
叔父と距離を置き、叔母の愛した男から身を引くこと。結果として私もそれがいいと決めて踏み出したのだから文句はない。
すべては奏斗の望みどおり進んでいる。
とはいえ、私はいずれ近い将来奏斗の望む未来へ引きずり込まれる予定だった。
抗うことなんか出来ない。
時の流れと、それに伴う病魔の波からはどうしたって………。
今が、まさにその一歩を踏み出したあたりだ。
純白のシーツに比べ、青みが濃い自分の肌。
我ながら細い指だ。血管がくっきりと浮かび上がっている。
気持ち悪い。
「言わないでね。………って、言うわけないか」
自分で言っておいて自分で訂正する。
引き離そうとしている奏斗が叔父を動揺させるようなことを言うわけがないのに。
苦笑して顔を上げると不意に、窓越しに奏斗と目が合った。
あまりに真っ直ぐすぎる、相手を射貫くかのような強い瞳に思わず息をのんだ。
「な、なに?」
視線を動かすことなく奏斗は言った。
「俺はおまえに死ねとは言っていない」
一瞬きょとんとしてから、奏斗の一言を頭の中で繰り返し――私はふきだした。
「励ましてくれるんだ?」
そう訊くと、奏斗は目をそらしてしまった。