泣いたら、泣くから。
――お話ししたいことがあります。今、お時間よろしいでしょうか。
姪の友だという咲希は高校生にしてはできた丁寧な話し方で訪ねてきた。
どうぞと中に招き入れイスを勧めると、ぺこりと一礼しただけで、そこに腰を下ろそうとはしなかった。
「お茶、持ってきますね」
「ど、どうぞお気遣いなく」
看護士に深く頭を下げ、ドアが閉まると咲希は改めて私に向き直った。
姪より一回りほど体格のいい、といっても、そう思うのは咲希のほうが腕や足に筋肉がついているためであり、けっして太っているという印象ではない。
結い上げたポニーテールは髪の毛のところどころが色が抜け落ちて薄い茶色に変わっていた。瞳は濃いダークブラウンで、黒い肌に浮かぶ赤色の頬は健康な高校生を象徴するように光っていた。
自分は水泳部だったと言っていた姪も、ちゃんと部活に行けていれば、彼女のようだったのだろうなと思った。
真逆の姪と咲希を頭の中で比べていると、突然、目の前から咲希の顔が消えた。
慌てて下を見て、ぎょっとした。
「や、やめなさい。いったいどうしたんですか」
いきなり土下座をした咲希は床に額をつけて声を上げた。
「お願いします。あの子に、一花に、会いに行ってあげてください。一花には、もう時間がありません」
不吉すぎる咲希の一言に、胸の奥がけたたましい音を立て始めた。
わたしはなるべく平静を装った声音で聞きかえした。
「時間がないとは、どういうことかな」
顔を上げさせようと触れた咲希の肩は震えていた。
床から額が離れた直後、咲希の顔からぽたりと雫が落ちた。
「次、発作が起きれば、今度こそ危険だと……」
愕然とした。
そんなに、ひどかったのか………―――。