泣いたら、泣くから。
もしかしたら、とは思っていたけれど、まさかそこまで切羽詰まった状態だったなんて……。
どこまでも甘く、卑怯な自分に嫌気が差した。
考えたくないことからは目をそらし、自分がすこしでも傷つきそうなら背を向ける。
自分を守るため、最悪の状況を考えようとしなかった。
無意識に自分の手を見下ろしていた。
二週間前、確かに姪の腕を掴んだこの手に、今はなにも触れることはない。
ちゃんと掴んでいたのに、すぐそばにいたのに、これがいいのだと繋がりを断ち切ったあの日。
姪の気持ちを受け入れたいとわずかにでも思ったのに、どうしてその彼女の苦しみまで受け入れてあげようという気にならなかったのか。
最低だ。
なんて駄目な男なんだろう。
自分の卑劣さに涙が出そうになった。
震える咲希をなんとか立たせて、イスに座らせると、俯きながら口を開いた。
「一花が生まれつき心臓が悪いことは知っていますか」
「この前きいたよ」
咲希は一度頷いて、続けた。
「今年の春でした。一花は大きな発作を起こして倒れました。一花は部活を辞めざるを得なくなって、体育も、運動もなにもかも制限されて、やがて一花は自分の置かれた状況について行けなくなりました。あの頃の一花はまるで人形のようで。死ぬくらいなら、死んでやるって言ったくらい……」
あの姪がそこまで言うとは、よっぽど苦しかったのだろう。
わたしと違い動くことが好きだった姪のことだ。医師から指示された内容はよほど堪えたに決まっている。
そこではじめて咲希はちゃんとわたしの目を見た。
涙をたたえながら、咲希は唇にかすかな笑みを浮かべた。「でも」
「―――でも、そんな絶望の淵から一花を救ったのは、先生の存在なんですよ」