泣いたら、泣くから。


「わたし?」


 思いがけず自分が出てきて反射的に聞きかえすと、咲希ははいとはっきり頷いた。


「先生を好きでいることが、一花をこの世に引き留めたんです」


 ――一花は、ずっと悩んでいました。




 私は小学校の頃から一花を知っていますが、あの子は好きな人がいるかと聞かれていつも返答に窮していました。

 打ち明けられたのは私だけらしいです。

 照れくさいような、困っているような、複雑な表情で先生のことが好きだと―――

 
 いえ、好きとはっきり言っていたわけではありません。


 そこまで言って、咲希はふっと頬を緩めた。
 幼いときの姪を思い出して懐かしんでいるのだろう。咲希は続ける。


 先生のことを考えはじめるときりがなくて、胸も痛くなる。
 会えばいつも目で追ってしまうし、声をかけられたり、頭を撫でられたりすると嬉しくて夜も眠れない。―――だけれど、

 この気持ちが単なる憧れなのか、恋愛感情なのか、自分でも判別できないと。




「私は驚きました。叔父が好きということももちろんでしたが、なにより、一花は大人しいタイプの子ではないでしょう。こうと決めたら突っ走るというか。それなのに先生のことだけはずっともじもじしていて、自分でもどうしていいかわからずいたらしいです」



 やっぱり―――。

 
 やっぱり姪も悩んでいたのだ。

 わたしへの気持ちは血の繋がりによる家族への愛なのか、異性に対するそれであるのか。


 ならば、
 どうして姪は迷う気持ちを固めることが出来たのか。


 わたしの疑問を酌み取ったように咲希は続けた。



「中学三年の秋、一花はある男子告白されました」



 
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