泣いたら、泣くから。
そのとき、一花は驚くくらいすんなりと、自分には好きな人がいるからと答えたそうです。
悩みや苦しみや不安、まるで霧を風が吹き飛ばしたように一花の心から消え去った。
そして、
それまでくすぶっていた思いが一花の中で弾けたんです。
咲希はそこで一度、言葉を切った。
わたしが出して置いたお茶を丁寧に掴み上げるといただきますと言って口をつけた。
一口、二口と飲み込んで、湯飲みを膝に置く。
そしてそのまま、咲希は再開した。
けれど一花は、先生に抱く特別な感情を確固たるものと理解してもなお、気持ちを伝えてよい相手かどうかは決められずにいました。
第一に奥様がいること、そして、離れようとして切り離すことの出来ない同じ血が流れる叔父であること。
「一花は、ずっとずっと自分の気持ちを押し殺してきました。叔父さんを苦しめたくはない。私は叔父も叔母も好きだからと。手を引くことは当たり前であると、素直になることから目を背けていました。そんなある日のことだった」
するとそこで咲希の顔に影が落ちた。
辛そうに引きつる咲希の顔を見て、発症だとわたしはすぐに悟った。
姪の体に変化が起きたのだ―――。
「……遠くない未来すべてを失うのなら今死んだって一緒でしょ。一花はそう言いました」
私ははじめ、なにも言ってあげることが出来なかった。
だけど、
私はなんとしても一花に生きていて欲しかった。
生きることにさえ手を離そうとする一花は見るに耐えられなかった。だから、
―――誰かを傷つけることを怖がって、それで自分の思いを殺して、そのまま死んで後悔しないの?
好きなままで、たとえ相手が自分のほうを向いてくれなくても、なにも伝えないまま自らピリオドを打つことは、痛みに苦しんで死ぬことより辛くないのかと。