泣いたら、泣くから。
もう、すべて終わったんだ。
これ以上、この世界にしがみついている必要なんて、ないのだから。
叔父に別れを告げ、私はすべてをやり終えた。
理解は――最後までしてもらえなかったけれど、それでも、伝えたことには変わりない。
言ってよかったと思う。
叔父の気持ちを確かめることなど、私には出来ない。
いくら訊いたって、結局それは、本人にしかわからないことだから。
叔父は優しいから、もしかしたら、私の思いをちゃんとわかってくれたかもしれない。
ただ、私のことを思ってわからないフリをしていただけなのかもしれない。
だったら、すこし、嬉しい。
叔父とさよならしたことが、まったく悲しくないと言えば嘘になるけれど、
でも、
思ったほどショックを受けてはない。
予想以上に、すっきりしている。
―――――――後悔はない。
もう終わりでいいんだ。
手術は上手くいかない。
でも、もし仮に、
奇跡が起きて、万が一にも生き延びれたら…?
――いや、
そんなこと、考えるだけ馬鹿馬鹿しいか。
叔父は私を想ってなどくれないだろう。
苦しい世界だとわかっていて生き延びる必要があるだろうか。
好いた相手に振り向いてもらえない。
そんな残酷な世界に、残りたいと、繋がっていたいと、手を伸ばせるほど私は強い人間じゃない。
眼裏に浮かぶ叔父の笑顔が胸をしめつける。
やめろ、私。やめるんだ。
思い出すな。考えちゃいけない。
けれど、いくら命じても、意に反して記憶はどんどん私の脳に渦を巻く。
笑う顔、困った顔、心配する顔、泣いた顔。
忘れることなんかできない。
出来ないから、胸の中にしまったまま逝くしかない。
―――いっそ、すべて忘れてしまえればいいのに。
そうすれば、もう少し世界にすがりつこうと思えるのかもしれないのに。
指の間からナイフがするりと抜け落ちる。
タイルにぶつかって、乾いた音が響いて―――消えた。