泣いたら、泣くから。
遠くで、ドアが閉まる音がした。
頭上に影が落ちて、それが叔父のものであるとはすぐにわかった。
慣れた匂いがしたから。
叔父の優しい香りと、薬のにおい。
病院の臭いは大嫌いだったのに、叔父から漂う鼻を突くようなにおいは不思議と我慢できた。
それが今、すぐ近くにある。
叔父は囁くように言った。
「泣いてるの?」
「泣いてない」
ぶっきらぼうに答えると叔父は質問を変えた。
「お茶をいれようか」
「いらない」
引こうとしない叔父はなおも言う。
「座ってもいいかな」
「駄目、帰って」
お願い。
帰って。
これ以上一緒にいたら、本当に泣いてしまう。
布団一枚じゃあ頼りない。
手を伸ばしたら、届いてしまう。
もっと、距離を取らないと耐えられない。
近すぎる。
熱を感じる。
触れたいと、願いはじめる。
離れることが怖くなってしまう。
離れられなくなってしまうから―――――――――。
「一花ちゃん――」
叔父を遮って私は言った。
「お願い、叔父さん。帰って………………っ!?」
そのとき、不意に布団が引っぱられた。
突然の眩しさに目を細める。
隙間から、叔父が私をのぞき込んだ。
視線がぶつかって、喉にかすかな痛みが走った。
叔父はふっと笑った。
そして、
「嘘。涙、出てるよ」
そう言って、私の頬を拭った。