泣いたら、泣くから。
三章-7
「駄目だな私。もう叔父さんのこと考えないって決めたのに、ほんとはすごく会いたかったんだね。バカみたいに泣いて、可愛くない……」
並んでベッドに腰掛けながら、姪は苦笑した。
流れる髪の間からのぞく横顔にはまだ涙の線が残っていて、目の周りと鼻には赤みがさしていた。
しっとりと濡れる睫毛が重そうに下がって姪の目を隠す。
「死んでもいいと、思ったのかい?」
訊くと姪はまぶたを下ろし、口の端を小さく上げて頷いた。「……医者の叔父さんに言ったら怒られるよね」
「でも、私思った。もう長くないってわかってるし、生きてたって楽しいことなんかない」
「林さんのことを考えないのかい」
「なんで咲希のこと……ううん。それは、まあ………―――手、握ってもいい?」
触れた姪の手はひどく冷たかった。
「私がいなくなって悲しんでくれる人がいることは嬉しいよ。だけど、その中に叔父さんはいる?」
「一花ちゃんがいなくなったら悲しいよ」
すると姪は首を捻ってわたしを見上げた。
目の端がまだ濡れている。それをわたしはハンカチで拭った。
すかさず姪はわたしの手を掴み、
「それは、姪だから?」
と言って、苦しげに眉を寄せた。
その問いにわたしは数秒考えこみ、「人だから、かな」、と答えると姪はえと聞きかえした。
「一花ちゃんに限らず、誰かが死ぬことは世界から灯りが一つ消えることだよ」
「知らない人でも、悲しくなるの」
「なるさ」
驚く彼女に、大まじめに返すと、逆に姪は吹きだした。
「医者がそんなことでいいの? いちいち悲しくなってたら心が折れちゃうよ」
「死を悲しむ心を忘れたら医者なんかやってられないよ」
そう言うと、姪は笑顔を消して、表情を改めた。「―――なら」
「叔父さんが悲しくならないように教えてあげる」
姪はベッド脇に置いてあった卓上カレンダーを手に取った。