泣いたら、泣くから。


 ある一日を指さして姪は言う。


「この赤い丸が私の入院日」


 今日が最後と言ってわたしのもとへやってきた翌日だ。

 と、やけに黒々と太い丸で囲まれている日にちを見つけた。
 何度も何度もインクを重ねたように紙がめくれて、そこだけがやたらと主張していた。


「この黒い丸は?」


 気になって自然、そう問うと、待ってましたと言わんばかりに姪は口角を上げた。




 ―――これはね、



「私が地獄に堕ちる日」





 瞬間、時間が止まったような錯覚を覚えた。

 あっさりと口にしたとんでもない発言にわたしは眉を寄せた。



「なにを、言ってるんだ」



 黒丸で囲まれた日にちを一花は指でなぞりながら、


「手術日なの。この日、私は死ぬ。それで、地獄に行く」



 私、サイテーな人間なの。
 これ聞いたら、いくら叔父さんでも私を軽蔑する。


「一体どういう―――」


 わたしを遮り姪は続けた。「私ね―――」


「私ね、叔母さんが死んだとき、チャンスだって思ったの」




 もうすぐ死ぬ私に神様が与えてくれたプレゼントなんだって―――。


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