泣いたら、泣くから。


 真由がもっとも愛していた花。
 鮮やかなオレンジ色を庭に散らすマリーゴールド。

 なにより優しく、丁寧に、接していた姪の小さな背中を、わたしは何度も見た。

 真由にすこしでも嫌悪を抱いていたのなら、愛おしげな瞳で世話できるはずがない。
 そもそも、わたしの妻が好きだった花になどはなから興味を持つわけがない。

 それに、なにより咲希が、確かに言っていたではないか。

 ―――私は叔父も叔母も好きだからと。

 
 咲希は嘘を言ってはいない。

 それはつまり、姪も嘘を言ったわけではないということ。



 顔半分を影で覆った姪の唇がかすかに動いた。


「……どうして? どうしてそんなこと言うの? やめてよ。今さら優しくしないで」


 かすれた声で言いながら、姪は首を振った。

 離そうともがく指をわたしは上から押さえる。


「嘘を言ってる一花ちゃんは一花ちゃんらしくないから。無理する姿は、見てるわたしも苦しいよ。だからもうやめるんだ」
「別に無理なんかしてない」
「してるよ」
「してないって―――」
「嘘」
「叔父さん……」
「見てればわかるんだよ」
「……」


 とうとう黙り込んだ姪に思わず苦笑した。
 どうやらわたしも姪のなにがなんでも納得させる攻撃が身についてしまったらしい。
 
 見えない表情から、納得してくれたのか、認めてくれたのかはわからないけれど、
 だが、それでもいい。

 姪が言いたくないことを言わなくて済むようになるのなら、それで。

 なにより、
 揺れる彼女を、生きることを諦めようとする彼女の気持ちを、生きたいと望むことが当然だと思えるあたりまえの道へと戻す力になれたのなら。


 今、まちがいなく姪の頬を流れる涙は、彼女の心を映していた。




 わたしは思い切ってもう一歩、踏み込んだ。「怖くなった?」




 その瞬間、姪の肩が揺れた。




「死ぬことが怖くなった? 生きたいって、苦しくなった?」


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