泣いたら、泣くから。


 わからないよ。
 そんなこと、認められない。―――認めたくない。

 はっきりと、そう口に出せればいいのに、なかなか音は言葉をつむがない。
 死んで欲しくないと、こんなに強く思っているのに、それを伝えられない歯がゆさが胸に痛みを走らせる。

 もっと、勇気づけられるなにかを、言えればいいのに。
 そう思うけれど、弱くて、いつも靴先だけを見てる私が、姪を前向きにさせられる言葉などかけられるだろうか。


「……一花ちゃん」


 握っている手も、これ以上進ませることが出来ずにいる。
 すこし腕を伸ばせば、すぐにでも抱きしめてあげられるとわかっているのに―――叶わない。

 わたしは、なにも出来ない……。


「―――叔父さんには、明日がちゃんとある」


 不意に、ひどく重みのある一言が耳朶を打った。「だから」

 
 ―――だから、
 いっぱい笑って、叔父さんは顔あげて生きて―――。


 まるで、わたしの考えが読めているかのような発言にぎょっとした。

 絵本に出てくるような、民を慈しむ女神のような微笑を浮かべて姪は言った。
 それは、あまりに美しく―――あまりに痛々しかった。

 わたしは首を振って顔を背けた。そして、吐き捨てるように、


「明日は、みんなに平等に訪れる。わたしに限ったことじゃない。一花ちゃんもそれは同じだ」


 そう言うと即座に姪は「違う」と否定した。「違うよ」


「明日もちゃんと朝が来るか、怯えて夜を過ごす私とは違う」
「違わないさ」
「違う」
「違わない」
「違うよ」
「違わないよ。だって―――」


 慣れたものだと思った。
 次はこう来ると予想が立てられれば、姪の攻撃などなんの意味も持たない。

 だって―――そう続けると姪はぐっと押し黙ってわたしを見上げた。
 ここだ……!

 止まったところを、わずかに出来た隙間を、わたしは滑り込んだ。


「一花ちゃんは、生きてるんだよ。そして、これからも生きるんだ」


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