泣いたら、泣くから。


 姪の見開かれた眼が揺れる。
 小刻みに息が唇の間から漏れてくる。


「お、じ、さん……」


 次の瞬間、大粒の涙がひとつ、眼の縁からこぼれた。


 わたしは痛みを感じるほど強く、姪の手を握った。

 20%でも可能性があるのならば。
 生きることが出来るというのなら。

 なにもかも捨てていいなどと、思ってはいけない。

 どんなに辛くても、この先の未来がどんなに苦しいものだとしても、
 いっぱい息を吸って、明日がくる喜びを感じるべきだ。

 それを出来る権利が、姪にはちゃんとある。


 間違いなくあるのだから。


「生きたいという思いを、諦めちゃいけない」


 涙が出るのは、心が痛いからだろう?

 死ぬことを恐れない人間は、苦しみなんて感じないのだから。


「叔父さん……」
「―――わたしに、時間をくれないか」


 そう言うと。
 え―――時間が止まったように、姪はぴたりと動くのをやめた。
 同時に、涙も勢いを失ったらしく、流れていたそれだけがゆっくりと頬を伝っていく。


 ―――どういうことなの。


 無言は、そう続きを促しているのだと勝手に解釈して、わたしは続けた。


「一花ちゃんを、一人の女性として認識できるようになるまで」


 

 そして、


 姪の気持ちにきちんと向き合えるようになるまで―――。




 言いながら、これでもかというほど姪の目は大きく開かれていった。


 

< 146 / 171 >

この作品をシェア

pagetop