泣いたら、泣くから。
変な叔父さん。そう言って姪は笑い、座ろうとベンチを指さした。
若干色の落ちた青いベンチに腰を下ろして、「寒くないかい?」
「明日なのに風邪引いたら大変だよ」
「ヘーキだよ。このほうがやっぱり落ち着くんだもん」
姪は裸足の脚を上げてぶらぶらと動かした。
「それに、私らしいでしょ」
「そうだね」
「中庭に降りてもよかったけど母さんが駄目って言うからさ。屋上でムリヤリ合意してもらって上ってきました」
話す姪は終始明るい。
翌日に手術を控えているとはとても思えないほどだ。
本来なら、これほど明るすぎると逆に心配なものだが、姪のそれはただやけになっているだけの元気さではないとわかるから、安心して聞いていられる。
ぶらさげていた足を持ち上げてベンチに乗せ、抱きかかえるように小さく体育座りをすると、姪は、「叔父さん」
「私ね」
「なんだい」
「手術に、ちゃんと臨もうと思うんだ」
膝小僧を見つめながら、しかし、瞳はしっかりと光を宿して、姪は言った。
「そうか」
「うん。死んでもいいなんて、もう思わないよ」
姪は強い。
周りがなにをしなくても、ちゃんと顔を上げられる。
わたしが言おうとして言えないことを汲んで、応えようとしてくれる。
姪は、強い子だ。
決意を秘めたその顔は、あのときの姪と重なって映った。
私、叔父さんのことが好き―――。
そう初めて言ってくれた蒸し暑かった夏の日と。
だが、
あのときより、今の姪のほうがずっと輝いていると思った。
すべてを受け止めて、それに立ち向かおうとする姿はどんなに高価な宝石より、美しい。
不意に、姪が首を捻った。目が合う。「―――だからね」
「ちゃんと言って欲しいんだよ」