泣いたら、泣くから。
「なにをだい?」
姪は躊躇(ためら)いがちに、だけどしっかりわたしの目を見て言った。
「頑張れって」
頑張れって、言って欲しいの。
「……だ、だけど」
頑張れは、わたしのもっとも苦手とする言葉だった。
苦しむ真由へ、言わなければと何度も思いながらも口にすることが出来なかった。
誰かを応援しても、結果が望むものでなければ言った分だけ傷つけると。
そんな、浮かんでは無理矢理消して、逃げ続けていたセリフを、姪は言って欲しいと言う。
悪意で言ってるんじゃない。
それはわかるのだけど……だけど―――。
「迷ってるくらいなら言ってよ」
―――迷うくらいなら、動けばいいのに。
不意に、真由の言葉が脳裏をよぎった。姪は続ける。
「頑張って生きてって、わたしに時間を与えてって言ってよ。私は上辺だけの約束なんて格好悪い真似はしない」
次の瞬間、―――ぎょっとした。
姪はなんとわたしの手を自身の左胸に乗せたのだ。
ほのかな熱とやわらかさが手の平から伝わって、全身にさざ波を立てた。
硬直するわたしを置いて、別段照れる様子もなく姪は、
「どきどきしてるの、わかる? 病気だからじゃないよ。叔父さんが近くにいるからどきどきするの。このどきどきはね、私を強くするの。叔父さんは私に力をくれるんだよ」
そう言って微笑んだ。
わたしが、誰かに力を与えている?
そんな、まさか―――。
しかし、驚くわたしとは正反対に、姪の顔は真剣そのものだった。
姪の言うことが本当だというのなら、わたしも、誰かの役に立てるのだろうか。
医者というだけではなく、人として、一人の人間として、誰かの背中を押すことが出来るのだろうか。
成功しないことを気にして、声をかけてやれず、壁をつくって自分を守って、ずっと目を背けて生きていた。
自己防衛のために言葉を飲み込んでも結局は後悔するとわかっているのに。
先のことなど、そのときならないとわからないのに。想像は想像でしかないのに。