泣いたら、泣くから。
四章『カオアゲテ』
―――恭介さん、知っていますか?
花壇を見下ろしながら、縁側に腰掛けるわたしへ話しかけるのは真由である。
どうしてかすこし、声が弾んでいるようだ。
「なにをだい」
読んでいた本を閉じて顔を上げると、肩越しに振りかえる真由と目が合った。
「花には妖精が住んでるって話」
あまりに現実離れした内容にわたしは思わず吹き出しそうになった。
昼間からなにを言い出すのだろう。
それも、冗談を言っているふうではまったくなく。
あくまで真剣に話しかける真由を気にして、わたしは笑いを飲み込んでからサンダルに足をとおした。
「どうしたんだいいきなり」
隣に並んで訊きかえすと、真由は足元に咲くオレンジ色を指さした。
「マリーゴールドの花言葉は生命の輝き」
花に宿った妖精は、花を愛する者に幸福をもたらすんですって―――。
「へえ、じゃあこれはわたしたちに健康を与えてくれる、ということか」
「祖母の作り話か知りません。だけど」
真由は大きくなった腹を撫でながら微笑んだ。
「だけど私、もうすぐ母親になるってわかってからこの花をすごく愛おしく感じるようになりました」