泣いたら、泣くから。


「―――恭介さん」


 彼女にしてはめずらしく、自分から―――しかし、おずおずとではあるけれど、自分の手をわたしの手に重ねた。

 姪のそれと似て、あまり肉のない白い細い指をわたしはそっと握りかえした。




 それが、わたしと真由が手を握った最後の記憶。

 恥ずかしそうに頬を赤らめて笑う真由を、わたしははっきりと覚えている。




 ―――真由、君は怒るだろう。


 君を励まさず、手を握ってあげようとせず、
 離れたところから見守ることだけを選んだわたしを。

 逃げ続けたわたしを。


 ―――恨むだろう。


 どこまでも臆病者だった、
 卑怯なわたしを。

 目をそらしてばかりだったわたしを。


 
 ―――……見てくれ真由。

 
 花壇に植えられた鮮やかなオレンジ色の前でしゃがみ込みながら、語りかける。


 これは、あの子が植えてくれたマリーゴールドだ。君が好きだと言ったのをちゃんと覚えていてくれたんだよ。

 わたしのために、そして、君のためにね。


 一花は、優しい子だよ。


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