泣いたら、泣くから。
四章-2
「先生、最近元気ないんねが? こんな老いぼれに心配されるようじゃあ先生もまだまだだな」
いつものように往診にやってきた長谷川さんの家で、本来心配するべき立場であるわたしが逆に心配される羽目になっていた。
のぞき込んでけらけらと笑う長谷川さんに思わず苦笑する。
顔に出やすいタイプと言われたことはないのだけれど、そこはやはり倍以上生きてこられた年長者のある意味、眼力、というやつなのだろう。
完全に見透かされている。
「すいません」
「気にしなさんな。ぼーっとすることくらい誰だってあっがら。―――ああそうそう。今日はな、先生さプレゼントがあるんだぁ」
そう言って長谷川さんが差し出したのは机の上に置かれていたビニール袋だった。
なんだろうと自然、中を見て、わたしは思わず手が止まった。
「これ……」
袋の中におさまっていたのは、鮮やかなオレンジが咲き誇るマリーゴールドだった。
「孫がな、くれたんだ。おれが長生きできますようにだと。泣かせてくれっべ?」
だいぶシワが垂れてくぼんだ目の端を拭うような仕草をする長谷川さんからマリーゴールドを受け取り、
「優しいお孫さんですね」
そう返すと「んだがら、自分で買って来たもんはいらねんだ。孫のがあればおれはあといらねがら」
長谷川さんはにこにこしながら横を向いた。