泣いたら、泣くから。


 つられて後ろを振り返ると、ちょうど寝ている布団から首を捻ればすぐ目につくところに小ぶりのマリーゴールドが飾られていた。

 おそらくあれがお孫さんがプレゼントしてくれたという花なのだろう。


 しばし庭を見つめてから、改めて長谷川さんのほうを向き直り―――ぎょっとした。今さっきまで穏やかだったその顔から笑みが一切消えていたのだ。

 真剣な視線にぶつかって、ごくりと唾を飲み込んだ。

 小さくなった瞳がじっと、射貫くような強い光を伴ってわたしを見上げる。「―――先生が」


「先生が、なにを抱えてんのかは知んね。けどな、悪いほうにばかり物事を考えちゃなんねよ。昔からよく言うべ? 悪い予感は的中するって」
「―――いたっ!」


 長谷川さんはわたしの頬をつねって強く上へと引っぱった。そしていつものように―――いや、いつもよりいじわるっぽく、にっと笑って、


「笑うことを忘れちゃなんね」


 神さんはな、いつもおれらを見てんだ。神さんは、笑ってるやつの味方だ。



 だから、笑ってろ。
 


「な、先生?」



 長谷川さんの笑顔に、思わず喉の奥が震えた。
 熱くなる目頭を感じながら、だが、ここで泣くわけにはいかないと懸命に堪えて、




 ―――はい。




 わたしはしっかりと頷いた。

 
 長谷川さんはそれより深く頷いて、



 ―――んだ。それでいい。


 先生には笑顔がよく似合う、そう言ってくれた。


 
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