泣いたら、泣くから。


 往診から帰ると、待合室に咲希が来ていた。
 俯きがちにソファに腰掛けている。
 わたしに気づくとぱっと立ち上がって小さく頭を下げた。
 
 顔を上げた彼女の目のふちは赤くなっていた。


「いてもたってもいられなくて。なにか連絡ありませんか」


 わたしは咲希の頭に手を乗せた。「大丈夫」


「一花ちゃんなら、きっと大丈夫だ。―――奏斗君も来てたのかい」


 帰ってきたときからずっと首筋に感じていた視線を指摘すると、咲希はえっと驚いてわたしの背後へ視線を移した。

 次の瞬間、息をのむ音がした。

 咲希のその反応が正解の意味と取り、振りかえると、予想どおり化粧室の壁に隠れていた男、奏斗が廊下に姿を現した。


「……別に、心配したわけじゃない」
「一花ちゃんのことなら心配ないよ。あの子はきっと帰ってくるさ」
「だから違うって」


 ムキなるということは、心配しているということだろうに。
 素直になれないところはまだまだ子供だ。


 だが、優しいということに変わりはない。


 わたしはそのことがただただ嬉しかった。



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