泣いたら、泣くから。
「俺は、義兄さんと中澤を認めない。認めることなんか出来ない!」
吐き捨てるように奏斗は言い、そして。「だけどっ」
「だけど、それと、アイツが死ぬことは関係ない。もう、誰かがいなくなるのは勘弁だ」
わたしと咲希から顔を背けるように下を向いて震える声で言い、ぎっと下唇を噛んだ。
胸が熱くなった。
拳を握りしめる奏斗が、その言葉を言えるようになるまで、どれほどの葛藤の時間があったことだろう。
姪のしてきたことは許せなくても、この世界から消えてしまうことは違うと否定する。
そう結論づけることが出来た奏斗は本当に優しく、すごく強い子だと思う。
真由を亡くしたとき感じた人を失う寂しさ、辛さ、虚しさをはっきりと覚えている今だからこそ出来たことかもしれないけれど、
それでも、奏斗はやっぱり、強い。
わたしが奏斗の立場なら、きっと奏斗のような決断は出来ない。
出来たとしても、それをわたしに言えはしないだろう。
奏斗からすれば、姪は憎むべき対象だ。
それなのに、奏斗は姪を心配している。
いくら恨んでいるとしても、彼女の存在を認め、気にかけられる奏斗はすごい。
ほんとうに。
わたしはそっと奏斗の肩に手を乗せた。
「奏斗君は優しい子だね。ありがとう」
気恥ずかしそうに視線を左右に動かす奏斗。
まだまだ少年だと思っていたけれど、それは失礼なことだったようだ。
彼は、もう立派な大人なのだ。
と幼さ残る義弟の顔を見下ろしていると、不意に咲希の悲鳴に近い声が室内に響いた。
「―――先生、携帯!」