泣いたら、泣くから。
一章-4
日曜日――本当に姪はやってきた。
兄と妻の春乃を連れて3人で。
本気で来ると思っていなかったわたしは驚き、そして動揺した。
またあのようなことを言われたら……と。
だが、私の心配をよそに、姪はいたって普通の娘として少女然としているので、わけもわからずほっとした。
「お昼買ってきたんですよ。台所、お借りしますね――こらあんたはまた裸足で! 女の子でしょ、すこしは手伝いなさい!」
「女がみんな料理すると思ったら大間違いだよー。水やりしてくるから。あ、麺は固めでよろしく」
「もうこら一花っ!」
「……うるさくて悪いな」
「いや、静かすぎるくらいだから丁度いいさ」
家を建てたはいいが、子供はなく――築5年もならないうちに妻の真由も失って、それでなくてもがらんとしていた二階建てはまるで空き家のようになってしまった。
わたしが動けば音はうまれる。
だが。
わたしが止まれば家は一瞬にして静寂に包まれる。
そのたびに、わたしはいるのに、誰もいないような錯覚にとらわれる。
止まった水道。
足音のしない廊下。
開いたままの新聞紙。
わたしは一人になったのだと、きちんと理解しているはずなのに、何度も何度も現実を突きつけられる。
そのうち、自分自身までいないものだと思い込んでしまうのではないかとふと考える。
一人は人を駄目にする。
わたしはどうしてここにいるのだろう――いつか、そう自分に問いかける日が本当に訪れるのではないだろうか。
こんなことを思うのは、わたしが年を取ったせいなのか。それとも。
残された者だけが与えられる宿命なのだろうか――。