泣いたら、泣くから。
「――……ごちそうさま」
「あら一花、もういいの?」
「うん」
「半分以上残ってるじゃないか」
「一花ちゃん、食欲ないのかい?」
「うーん……うん。ちょっとごめん」
姪は箸を置き、席を立つと、そそくさと台所へ消えた。それも、なぜかカバンを持って。
ふと顔色が悪いように思えたのは気のせいだろうか。
だがしばらく経っても姪は戻ってこなかった。
姪を案じた春乃が台所へ向かい――驚く速さで居間へ戻ってくると、
「恭介さん、空いてる部屋を貸してもらえませんか?」
明らかに冷静さを欠いた様子だった。
姪になにかあったのだと直感したわたしは即座に立ち上がり、
「仏間の隣が使えます。客人用に布団もありますから」
「ありがとうございます」
ふたたび台所に引っ込んだ春乃に着いていこうと踏み出したところで、兄に肩を掴まれた。
「一花ちゃん具合が悪いんじゃないのか」
「昨日も遅かったようだからな。……ちょっと疲れが出たんだろう。おまえが看てやるほどのものでもない」
「だけど」
「平気だ。じきに春乃も戻ってくる。すこし寝ればなんともないさ」
だけどやっぱり――医者として、叔父として、心配に思ったわたしは兄の手を振り切ろうとした。
が、食い込むほどさらに強い力で肩を掴まれ、振り返った先に見た兄の目が、
「行くな」
と強く訴えていることに気づき、それより先へ一歩を出せなくなった。
なんだ……これは……。なぜわたしが行くことを拒む?
しばし視線を交わし、いろいろと納得がいかないと思いながらも仕方なくわたしはその場に座り直した。