泣いたら、泣くから。
「そういえば夏休み明けすぐ体育祭だっけ……」
「うん。……ひどいよね、あんたにこれ書かせるなんて。私、変わろうか」
私は体育委員であるが、今年、体育祭に参加することが出来ない。
咲希はその理由を知っている。
だから、出たくても出られない私を気遣ってそう言ってくれているのだ。
「ありがとう。だけど私やるよ、委員だし。それにほら……男子の委員は私のこと、知らないじゃない? しょうがないよ」
「だけどさ――」
「咲希」
「……な、なに」
咲希の言葉を遮り私は口を開く。
「私のこと、誰にも言ってないよね?」
「当たり前じゃん、約束したもん」
「うん、だったら今まで通りにして。今日ここにいるのもただの貧血、そうだよね? 咲希?」
「……一花」
頷いてくれないのも、咲希の優しさだ。
咲希は本来隠し事が得意なタイプじゃない。顔にも出やすく、わかりやすい子なのだ。
なにも知らないとはいえ、当然のように仕事を任せようとする男子が許せないのだろう。
――だが、これでいいのだ。
なにより、私自身が"このまま"を望んでいるのだから。
咲希には辛いかも知れない。
真実を知っているからこその苦しみである。「すこし――」
「すこし、手伝ってくれれば助かるな」
ひらひらと記入用紙を動かすと、「バカ、当たり前じゃん」と咲希は苦笑した。
「バカは余計です」