泣いたら、泣くから。
「ああ、一花ちゃん。いらっしゃい。 一人で来たの?」
「うん。チャイム、裏口にもつけたんだね」
「こっちを玄関だと勘違いしてる人が多くてね。 お上がり」
戸を開けて現れた叔父から医者特有の薬のにおいがした。叔父は近くの内科医院で助手として働いている。
肉のない体に余裕のあるシャツがさらに細さを強調する。
すこし痩せただろうか……というより、やつれた、のほうが正しいか。
「夏休みはもうはじまったのかな」
「月曜日から。今日は午前中講習で」
相変わらず生活感の薄い居間に通されて荷物を置き、「手、合わせてくるね」と廊下に出た。
隣の六畳間に飾られた仏壇には数日前亡くなった叔母の遺影が置かれていた。
29歳という若さだった。
モノクロ写真となった叔母は笑顔のまま時間を止められてしまった。
「ありがとう一花ちゃん。居間にお茶を用意したから手洗っておいで」
「――あー、私、その前にやることあるんだよね」
「やること……?」
きょとんとした叔父に頷き返す。
「そ。 ちょっと庭借りるね」