泣いたら、泣くから。
◆
「今のやつ、だれ?」
「今のってー? ああ、5組の中澤さんのことか?」
中澤。
義兄さんと、同じ名字。
どこかで見た覚えがある顔……――
俺ははっとして、杉下が持っていた5組の割当用紙を奪い取った。
「なにすんだよ柴崎」
「ちょっと貸して」
「断りを入れるのは普通取る前だぞ!」
「はいはいごめんねと」
「ちゃんと謝れー!」
説教を垂れる坊主頭を受け流しながら、俺は5組の割当に視線を落としある名前を探した。
そして一人の名前のところで動きが止まる。
――あった。
クラスに何人もいる名字ではない。中澤という名前はすぐに見つかった。
「中澤、一花……」
「なんだ柴崎。中澤さんに気があるのか?」
「いや、そうじゃないが」
驚いた。
まさか同じ学校だったとは……。
誰もいない廊下を振り返り、俺はもう一度すれ違い様に見た中澤の顔を思い出す。
そうだ、俺は間違いなくあいつを見た。それもつい最近のことだ。
……いつだったかを思い出し、ちくりと胸が痛くなった。
義兄さんのすぐ後ろに並んで立っていた若い女。
そういえばこの学校のスカートを履いていたなと今さら気づく。
中澤一花を俺は見た。
――姉貴の葬式で、見かけたのだ。