泣いたら、泣くから。
翌週の木曜日。
やはり姪は来なかった。
――しかし、その変わり家に電話がかかってきた。夕暮れ時、夕飯の支度をしているときのことだ。
中澤ですがと受話器を取ると、姪の第一声は、
「……怒ってる?」
質問だった。
名乗ることよりも先に、わたしの心の内を尋ねてきた。
姪らしいとわたしは小さく笑い、「怒ってないよ」と返すと、受話器の向こうから息をついたらしいざわっとした音が漏れた。
「そか……。この間はなにも言わずに帰ったりしてごめんね。謝りたかったんだけど、なんか上手くいかなくて」
「いや、いいんだ。わたしも大人気(おとなげ)なかった。一花ちゃんの厚意を無にしてしまったことを謝りたいと思っていたんだよ」
すると姪はまた息をついた。
だが今度のは安堵という意味のそれとは違い、どこか呆れの色を混ぜた吐息だった。
「また厚意とか言う……。違うって言ってるじゃん」
それにはわたしはなんとも返事をせず、沈黙した。
いくら考えても、厚意以外にどう受け止めればよいのかわたしには判断できかねる。
――好意と取ることは、どうしても出来ない。
姪は、どうしたって、姪であるのだから。
実の兄と、その妻との間に出来た子供。
事実上の三親等。
親と同じだけ濃い血で繋がれた姪なのだ。
それは向こうもわかっているはずなのに――。
不意に、わたしの返事を待つように静まっていた受話器が震えた。