泣いたら、泣くから。
車に運び終わっても、姪は戻ってこなかった。
心配になり携帯を取り出すが、姪の番号を知らないことに気づいた。
……探しに行くか?
もしどこかで倒れてでもしていたら――。
心臓が鼓動を速め、こめかみのあたりをつうと汗が流れた。
こういうとき、人間の脳裏に浮かぶのはどうしたってよくない想像ばかりだ。
わたしは車に鍵をかけ、姪と別れた園芸コーナーへ向けて駆け出した。
――駆け出しかけた、そのとき。
ぴたっと、頬に冷たいなにかが触れた。
横目に見るとそれは缶だった。
「驚いた叔父さん?」
――恭介さん。驚いた?
不意に脳裏をよぎった声に慌てて振り向くと、真由の顔がわたしを見上げていた。
だが、それはすぐにわたしの記憶が見せた幻影なのだと気づく。
缶を手にしていたのは姪だった。
「叔父さん?」
「……あ、ああごめん。驚いたよ」
「もうー。驚いたならうわっとか、ひえっとか言ってよね」
わたしの反応の薄さに文句があるらしい姪は、つまんないとこぼした。
感情が顔に出ないのは昔からだ。苦笑して誤魔化す。
「驚き方は人それぞれだよ。……それより、本当に大丈夫かい?」
先ほどに比べ呼吸も安定しているようだし、顔に赤みも戻ってきた――ようだが……。
「体のこと言ってるの? だったらなんともないよ。ほら」
脈測定を露骨に拒んでいた姪は、今度は自ら手首をぐいと差し出してきた。
自分でも余裕があるとわかっているのか、触れてみると脈はさして速くはなかった。これなら心配するほどでもない。
だが……心臓の鼓動は一向に速度を落とすことなくわたしの胸で暴れていた。
「ね、大丈夫でしょ」
「あ、ああそうだね」
「ささ、叔父さんの家に戻ろう。――あ、叔父さんはお茶でいいよね」
しかし、そう言って缶を放る姪は、やはりいつもの姪にしか見えなかった。