泣いたら、泣くから。


 ふたたび玄関に戻り靴下を脱ぐと、靴を履かずにそのまま庭に出た。
 十分すぎるほど膝上のスカートをさらに二回ほどまくり準備は万端。


「……なにをするんだい?」


 女子高生の生足を見ても平然とした口調で叔父は問いかける。
 そこらへんはさすがに大人の余裕というわけか……

 女としてすこし、寂しい。


「叔父さん、花に水やってる?」
「水?」
「その顔はやってないでしょー。駄目だよ。今は夏なんだからちょっと放っておくとすぐくた~ってなっちゃうんだから」
「そうなのか。……庭のことは真由に任せっきりだったから」


 悲しそうに笑いかけられ胸が痛くなった。真由とは死んだ叔母の名前だ。
 昨日今日で吹っ切れるはずがない――いや、この先一生吹っ切れることなどないのかもしれない。
 ずっと心のどこかで叔母のことを思いながら叔父は生きてゆくのだ。


 そのことを考えると、今日、自分が果たしに来た目的がいかに非道であるかを改めて痛感し、胸が締め付けられる思いだった。


 ――でも、私は諦めるわけにはいかない……!

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