泣いたら、泣くから。


「――お茶にしようか」
「……えっ?」
「え、だから、お茶。用意したから足を洗っておいで」
「あ、ああうん。ありがとう」


 炎天下の下、花を植え替えている間にぼーっとしてしまったらしい。
 私は立ち上がり、うーんと伸びをした。

 暑さでもうろうとしていた中、過去へと思考が吸い寄せられていたようだ。


 あれはたしか、私が叔父を意識しはじめた頃の記憶だとおもう。

 叔母がまだ健全だった、初夏の休み。
 父と母と遊びに来た……たぶん、ゴールデンウィークの内の一日。


 ……そして、そのとき知らされたのだ。


 どのような過程で形を結ぶのか、まだ理解ができていなかった私はそのときはただただ驚き、そして嬉しかった。

 叔父と叔母は恥ずかしそうに、俯きがちに目を合わせながら告げた。


 ――子供が出来た、と。


 ◆


 足を洗いに行こうとしたところでふと、叔父に呼び止められた。


「聞いてもいいかな」
「なに?」
「どうしていつも裸足なんだい? 裸足が好きなだけ、なのかな」


 私は叔父から視線を外し、汚れた足を見つめた。


「――生きてるって感じがするでしょ」
「生きてる……」
「裸足で地面踏んでるとさ、いろいろ伝わってくるんだよ。靴履いてたらわかんない大地の呼吸、みたいなものとか。そういうのを、ちゃんと感じたいから」


 だから私は裸足がいい。

 自分はちゃんとここにいるという証を。
 まっすぐ立っているという生きる喜びを。

 足の裏を通して、全身で受け止めたいから。


「な~んて。叔父さんに言ってもわかんないかも。まあわかってくれなくてもいいけどね。じゃあ水道行ってくるから」




 
 


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