泣いたら、泣くから。


 家に上がると、居間を通り過ぎて仏間に向かった。

 手を合わせ、叔母の遺影を見上げているとまた、頭の奥で声が繰り返された。


 ――当然のようにそこにあったものが突然なくなってしまったら……


 ……悲しい気持ちになるでしょうね――


 これからも隣にいるはずだった最愛の妻に先立たれた叔父。直接見たわけではないが、何日も涙に暮れたことだろう。

 妻の死を、誰に八つ当たり出来るわけもない。
 自分の中にいろんな感情を押し込め、そのうち、心が砕けてしまうのではないかと思う。

 人間の命に永遠はない。
 だが、それでもまだまだ叔母が歩いていく道は長く用意されていたはずなのだ。
 叔母は病弱でよく寝込んでいたけれど、こんなに早く逝ってしまうとは誰も思っていなかった。

 二人で歩む道は、はじまって早々に崩れ落ちてしまった。


 叔父は悲しみ苦しみを一人で背負い、ふたたび先の見えない道の上に立たされた。


 明るく振る舞ってはいても、日に日にやつれが目立ちだした叔父の疲れ切った顔を見るたび、胸が締め付けられる。
 叔母の遺影から目を背けた。


 しかし、どんな姿であれ、どれほど辛い思いを抱えているのだとしても、私は叔父が好きだ。
 出来ることなら、叔父が胸の奥にしまい込んだ悲しみ苦しみをすべて共有したいと思う。

 膨らんでいくばかりの叔父に対するこの想いは、どうすることもできない。
 切ない気持ちに胸がつぶれてしまいそうになる夜を、いったいいくつ越えただろうか。


 もう……止められないのだ。


 踵を返し襖へと進む途中、私は心の奥で語りかけた。


 ――叔母さんは、こんな私を怒りますか……?




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