泣いたら、泣くから。


『恭介さんは私と似ていますね。自分ではなかなか決められないタイプ。人に言ってもらわないと、恐ろしいくらい決断に時間がかかってしまうの』


 ある駐車場で。

 姪と同じように真由は缶を二本、持ってきた。一本はコーヒーで、一本はお茶。
 どっちがいいかと聞かれ、わたしは返答に窮した。

 たかが飲み物ごときと思われるだろうが、一本ずつしかないというのはある意味心理戦だ。

 相手の好み、気持ちを考えつつ、それでいて決して自分の選択の自由を放棄したりはしない。
 表面に結露が出来る缶二本を見比べながらわたしは唸った。



 しかし結局ぬるくなって家に持ち帰り、冷やし直して半分ずつ飲むことにした。

 コーヒーを注がれたコップを見つめ、真由はぽつりとこぼした。


『迷うくらいなら、動けばいいのに……』


 でも、それが一番難しいのだけれど――――――。



 真由は以前そう言っていた。
 
 あのときの真由の言葉は驚くほどすんなりと胸に落ちてきて、わたしの心を強く刺激した。


 それからいつもなにかしらの選択を迫られるとき、反射的にわたしの耳に響く。真由が遺した呪文。
 聞こえるたびに心臓がバクバクと音を立てた。


 ――いま。
 胸にそっと手を乗せる。やはり鼓動は速かった。



 NOと告げることも相手を傷つける行為だが、なにも言わずに態度で促し、向こうから自発的に離れさせるのは、もっと傷をつけることになるのではないだろうか。


 わたしは番号の書かれた紙に手を伸ばした。


『ずっと、ずっと待ってるから……――』




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