泣いたら、泣くから。
二章-4
昼少し前。
太陽を反射してきらきら輝く水面が揺れている。
ばしゃんと音がして水しぶきが上がった。
窓越しに見るプールは去年となにも変わらない。
変わったのは、私が今ここにいるということ。
――去年は、私もあの中にいたのだ。
波を切って進んでいく仲間たちの姿、ときおり水面に浮かぶ横顔が眩しすぎて目を背けたくなった。
私は、やめたくて辞めたんじゃない。
続けていたかった。
泳ぐことは、大好きで、得意で、私の生き甲斐だった……
これから先も私は、あそこに立っていたはずなのに――
水が滴る飛び込み台を見つめ、唇を噛みしめた。
……私はもう、あの中に混ざることは許されないのだ。
『部活、体育、その他体に障るような運動は控えてください』
ガラス越しに台を指先でなぞる。
乗るたびに心が震え、気持ちが昂ぶってしょうがなかった私の特別な場所。
もう上がれない、私の舞台。
スポットライトを全身に浴びていたあの頃を思い出すだけで胸が締め付けられる。
喉の奥がかすかに痛むのを感じた。
仲間の一人が舞台に上がった。
焼けた背中がなによりも眩しい。
窓に映る自分と目が合った。
陰に隠れた私は……、舞台に出れられない役者は、なんのために役者であるのだろう。
なんの意味が、あるのだろうか。
「――おいアンタ」
無粋な声がして顔を上げると、見覚えのある顔が私を見ていた。