泣いたら、泣くから。
「……私?」
「そうアンタ。アンタしかいねーじゃん」
人を小馬鹿にしたような言い方にイラッとした。
「アンタアンタって、失礼なやつだね、あんた」
「自分も言ってるじゃん」
冗談の通じないやつ。ますます苛つく。
「あんた私に何か用でもあるの?」
「なかったら声かけねーよ」
まただ。
その口調をたたき直してやりたい。
「俺、アンタと初対面じゃねーよな」
「はぁ? ほぼ初対面でしょ。だってこの間代表の杉下君に提出用紙持ってったときすれ違っただけじゃん」
それなのにどうしてこんなに親しげに話しかけてくるのかわからなかった。
あー、イライラする……。
これ以上口をきいていたくなくなった私は、用があると言われたことをすっかり忘れ踵を返すと男の脇を通り過ぎた、そのとき。
「俺は、恭介さんの義弟(おとうと)だ」
ぎょっとした。
慌てて首を捻り男の横顔を見て――絶句した。
男と目が合う。男は続けた。
「言ってる意味わかる? 中澤サン?」
思い出した。
この顔、私は見たことがある。
……こいつ。
そうだ、叔母さんの弟……。
名前は確か――――――奏斗。
柴崎、奏斗だ。