泣いたら、泣くから。
二組の杉下と咲希は小さい頃からの知り合いで、幼なじみである。
小学校から咲希とは仲良くしているが、私は杉下とはほとんど喋ったことがない。
前に一度、
『好きなの?』
と聞いたら全力で笑われたので本当に"ただの"幼なじみなのだろう。
咲希が私の顔をのぞき込んできた。びくっとして慌てて離れる。
「なに」
「一花さ、やっぱ柴崎君になんか言われた?」
咲希は鋭い感性の持ち主だと思う。
それとも私がわかりやすすぎるのだろうか……。
素直に小さく頷く。
「なに言われたの?」
「びっくりするよ」
「驚かされるのは慣れたよ」
「……慣れないでよ」
「わけわかんないけど」
「言うよ?」
「どうぞ」
なんでも来いとばかりに胸を張っていた咲希だが、さすがにこの事実には驚かざるを得なかったらしい。
しばし声も出なくなり、私が大丈夫と肩を叩くとなんとか現実に戻ってきたらしかった。
「……なに、それ。どういう冗談よ」
「冗談なんかじゃないよ。叔父さんの奥さんの弟なんだって。葬式の日見たわたしかに」
「そ、そんな……いちか……」
咲希はどう声をかけたらいいのかわからず混乱しているようだった。
しかし、私も頭の中がごちゃごちゃになっているのは確かで、どうすればこの気持ちを抑えることが出来るだろうと、彼女の気持ちがわかっていながら無理な質問をしてしまう。
「……私、最低だ。こんなに近くに弟さんがいるって知って、このままあんなこと続けていいのかな」
答えは自分にしか出せない。
わかっているのに、他人の意見をどうしても知りたくなる。
そして、咲希が返事を濁すようなら、私はまっすぐその答えにくっついて流されて行くだろう。
人は、弱くなっているときどんなに崩れやすいものよりも脆くなる生き物なのだ。
だから。
咲希が言うなら、咲希が言うから、私はそれに…………――。
「こんな偶然、あんまり過ぎるって思う。思うけどね」
咲希は私の両肩をがっしりと掴んだ。