泣いたら、泣くから。
二章-5
祭の夜。
神社の境内には所狭しとさまざまな屋台が並び、競い合うようにどの店からも大きな声が張り上がっていた。
祭独特の食欲をそそる匂いがたちこめている。ソースの匂いだ。
足元でぴちゃんと音がして下を向くと金魚取りに失敗したらしい少年の網に大きな穴が空いていた。
集まった人々の熱気が集まり、どことなく視界が白んでいる気がする。
異様な暑さにうっすらと浮かぶ汗を拭って人込みを出ると、そのまま神社を囲む林に進んだ。
ここの神社には周りの家屋とを隔てる境という境がなく、林を東に抜けると公園に出ることが出来るのだ。
噴水と、それを囲むようにベンチが四つ置かれている。
人はまばらだった。
携帯を握りしめてしきりにあたりを気にする者、鏡をのぞき込み見た目のチェックをする者、楽しげに笑い合う二人組などなどが間隔を空けてぽつりぽつりと立っていた。
どうやらこの公園でカップルが待ち合わせをして祭へ向かうというのは、わたしが子供の頃から変わっていないらしい。
あたりを見回す。
もちろん、探しているのは姪である。
『ずっと……待ってるから』
わたしは、意を決してやってきた。
わたしの気持ちを打ち明けるため、そして、ちゃんと理解してもらうために――。
噴水を一周してみたがベンチに姪の姿はなかった。
仕方なく携帯を開き、新たに登録された番号を呼び出す。
画面に浮かぶのは「姪・一花」だ。深呼吸を一つ。
はじめてかける姪への番号に、なぜか震える親指を叱咤しボタンに力を込めた――そのとき。
「ごめーんゆっくん。待ったぁ?」
不意に背後で女の声がして振りかえる。
と、自分もいま来たところだからと笑って首を振る男に浴衣姿の娘が駆け寄っていくところだった。
ふと、なぜ暗がりのなか男に影があるのだろうと首を傾げ――街灯があったと気づいたわたしはすぐにベンチを離れた。
一つ一つ街灯を見て回ると、とうとう姪らしきショートヘアーの娘を見つけた。
髪型も違うし、浴衣だけれど、たぶん間違いではないはず。
確かめるように控えめに尋ねる。
「一花ちゃん?」