泣いたら、泣くから。
するとわたしの声に気づいた娘は携帯から顔を上げ、目が合うとぱっと笑って手を振った。
正解だった。ほっと安堵の息をつく。
携帯を巾着にしまい入れると姪はわたしのそばへやってきた。
巻かれた髪の毛がふわふわと揺れ、簪の先から垂れるビーズのような連なった飾りがシャラシャラと鳴る。
浴衣の黒地には赤と白の牡丹が艶やかに咲き誇り、それと合わせるように唇にも紅がくっきりと浮かんでいた。
姪は、いつもの姪と違っていた。
ぐっと大人ぽさが増して、まるで別人のようだった。
見上げる大きな目が細くなり、直後、姪はわたしの手を握ってきた。
「私きょう、ちょっと頑張ったんだよ。キレイでしょ?」
「はじめわからなかったよ」
「でしょでしょー。ねね、可愛いって言って」
「あ、あのねえ……」
「言って」
こうなると、期待に添えないといつまでも続くことはわかっていたので望まれるままに口にする。
「かわいいよ」
すると、自分から注文してきたくせに喜ぶことを横に置き、姪はさっと顔を背けた。
街灯に照らされる耳が赤い。
わたしは心の中で笑った。
見た目はいくら大人でも、まだまだ子供だなと。
「行こうか」
こくんと、まだ顔は上げられないのか俯いたまま姪は頷いた。
手を握られたまま、わたしは姪とふたたび祭の中へと戻っていった。