泣いたら、泣くから。
屋台を見て回る頃には熱も引いたらしく、姪はにこにこと笑いながら話しかけてきた。
だがその会話の中で、一切、どうして私が祭に行くことを決意したのかという部分には触れてこなかった。
あきらかに、避けているようだった。
「この浴衣ね、従姉のお古なの。新しいの欲しいってお母さんにねだったら駄目って言われて。せっかくのデートは新品で来たかったのになぁ……」
「充分だよ。全然お古になんて見えない」
「そう? まあ従姉一回しか着てないって言ってたからな。でもタンスに入れっぱなしが長いからやっぱ型古いっていうかなんだよねー」
「似合えば古い新しいは関係ないさ」
「黒はたいがい誰にでも合いますからー」
避けている――せい、だろうか。
いつも以上に饒舌で、テンションが高い気がする。
ほとんど黙っている時間のほうが少ないと思えた。
ふと"氷"と書かれた旗が目に止まり、
「かき氷でも食べるかい」
と提案する。しゃべりどおしだったため小休止を入れようと財布を取り出した。
姪は嬉しそうに顔をほころばせた――が、眉を寄せしばし迷い、結局――やっぱりいいと首を振った。
「いいの?」
「うん。ありがと」
「かき氷きらいなのかい」
「そうじゃないけど…………――あっ」
どう答えればいいのかわからず視線をさまよわせていた姪だが、なにかを見つけたらしく声を上げた。
見つめる先にあったのはアクセサリー専門の屋台だった。若い娘たちがやけに群がっているのが見えた。
「かき氷より、欲しい物見つけた」
そのまま手を引かれ着いていくと、店の中はなんとも女の子女の子らしいお洒落小物で埋め尽くされていた。
そして、それらの中に決して溶け込まず、異様な空気をまとって店の中央に腰を下ろしていたのはなぜかいい歳をしたオヤジだった。
なんでこんな若向けの店の店主がいい歳のおっさんなんだと激しく疑問に思っているとふたたび手を引っぱられ思考は強制的に終わりを迎えた。
「叔父さん、これ買って」
姪の手に握られていたのは小さなピンのついた大きな牡丹のヘアアクセサリーだった。