泣いたら、泣くから。
今日の着物とそろいにして髪に飾りたいのだろう。
「いいよ。いくら?」
「千二百円。まいどあり」
違和感がどうしても拭いきれない。
お金を渡すときもやっぱり思った。
この人はこの店向きじゃない。イカ焼きでもしていたほうが似合うと思う。
丁寧に値札を取ってくれた髪飾りを姪はこめかみよりすこし上の位置に留めていた。
手のひらよりすこし小さいくらいの紅牡丹がなんとも目を引く。
姪は顔を上げ、どう?と首を傾げた。
「浴衣に合ってるよ」
「大事にするね。ありがとう」
ほんのり頬を赤らめ姪は微笑む。
わたしたちは屋台が並ぶ道を抜けると参拝をしに奥へと向かった。
鈴を鳴らし手を合わせ、階段を下りながら姪はわたしに尋ねた。
「叔父さんはなにをお参りした?」
「わたしかい? わたしはねえ………一花ちゃんは?」
「私? 私は……」
真由が幸せでありますようにと祈った、とは言えなかった。
誤魔化すように質問を返すと、俯きがちに姪は呟いた。
「叔父さんが私を、女として好きになってくれるようにって……」
直後、わたしはその場で足が止まった。
だがすぐ後ろからも人が来ていることを思い出しなんとか歩き出す。
ばくばくと心臓が跳ね回る。
どうしよう。
姪は黙ってしまった。
……そしてわたしは何も言うことが出来ない。
なんとも言われぬ空気が重くのしかかる。