泣いたら、泣くから。
祭はなぜか一方通行の流れが出来ており、帰りは屋台の少ない道へと必然的に押し流される。
頭上にぶら下がる提灯だけがぼんやりとあたりを照らしていた。
薄暗がりの中、姪は不意に立ち止まると。「叔父さん」
「なんだい?」
下を向いたまま、一呼吸間をあけて姪は言った。
「私の名前を呼んで」
どうして、と聞きたいのをなんとか飲み込んだ。
とりあえず言われるまま呼んでみる。
「一花ちゃん……?」
すると姪は首を振った。「そうじゃない」
じゃあどうすればと聞き返そうとして――はたと姪の言いたいとしている意味を理解した。
しかし。
――しかしそれを実行するのは今のわたしにとって拷問以外の何物でもなかった。
沈黙すると、姪は眉を下げ苦しまぎれに笑った。
「やっぱ、駄目かな」
姪はわたしに呼んで欲しいのだ。
一花――と。
ちゃん付けなどという子供扱いの呼び方ではなく、異性へ向ける呼び方で。
男と女という対等な立場として、姪は呼んでもらいたいと思っているのだ。
だがわたしにはそれをすることは出来ない。
姪は姪で、一花ちゃんは一花ちゃんなのだから。
「……もう、こういうことはやめたほうがいいと思うんだ」
わたしの切り出しに姪がぴくりと反応した。
けれどわたしは止めない。
いま言わなければ、もう伝える機会は無いと思った。
「こんなふうに出かけることはもちろんだけど、一人で家に来ることもだ。一花ちゃんが嫌いなわけじゃないよ。来てくれることは嬉しい。花の世話をしてくれたり、一緒にお茶を飲んだりね――すごく楽しいけど、わたしたちはそれ以上にはどうしたって進めはしない。わかるだろ?」
唇を引き結び姪は頷いた――というよりは俯いた、のほうが正しいだろうか。
胸の奥がずきずきと痛むのを感じながらもわたしは続ける。
「一花ちゃんはわたしの中で、一花ちゃんでしかないんだ。昔から、そしてこれからもね。一花ちゃんの気持ちはありがたく受け取る。だけどわたしは――」
そのとき、わたしの言葉を最後まで聞かず姪は駆け出した。