泣いたら、泣くから。
「ちょっとのわりに随分時間かかっちゃった。せっかくお茶淹れてくれたのに冷めちゃったかな」
「淹れなおせばいいことだよ」
「ありがとう。――ねえ叔父さん、私のカバンからタオル取ってくれない」
「開けていいのかい」
「見られて恥ずかしい物なんかないし。てか、ほとんど物入ってないから」
「…………とても学校に行ってたとは思えない少なさだね」
「講習はプリント学習だからいーの! 足洗ってくる」
正直なところカバンには筆箱とファイルしか入っていない。
教科書は全て学校の引き出しの中だ。みんなそうだ。
あれほど思い切り呆れなくてもいいだろう。これだから頭のいいやつは困る。
私はタオルを手に庭に取り付けられた蛇口へ向かった。
◆
「お茶、ごちそうさま。美味しかった。また花の世話しに来るからね」
「頼むよ。次は兄さんも休みの日曜にでもおいで」
夕焼けがあたりを包む。
眩しそうに目を細め叔父は微笑した。
「うん。――……ねえ、叔父さん」
私は叔父の袖を掴んだ。
緊張が伝わらないよう、平静を装って顔を上げる。
「なんだい?」目が合って、どくんと心臓が跳ねた。
「一花ちゃん?」
一度くちびるを引き結び、心を決める。
長年の想いを、ずっと舌に乗せることが出来なかった言葉を――とうとう私は口にした。
「私、叔父さんのことが」
好き――――――。