泣いたら、泣くから。
祭の灯りがぎりぎりまで伸びきったほとんど明るさのない暗闇との境目にうずくまる人影を見つけた。
目を凝らすと、人影の背中に花の模様が浮かんでいるのがわかった。
速度を上げて近寄る。
――紅牡丹だった。
「一花ちゃん!?」
小刻みに牡丹の花が揺れている。背中に触れるとうっすらと着物がしめっていた。
顔をのぞき込むと首と額に尋常じゃない汗を浮かべ、苦悶に顔を歪めていた。
胸の前を強く握りしめ、はあはあと浅く呼吸を繰り返す。
「一花ちゃん、大丈夫!? わたしのことわかる!?」
姪の返事はなかった。
口の端から漏れる音は苦しさからくる呻きだけ。
姪に声をかけていた若い男を仰ぎ見ると、男はわたしの行動の意を一瞬で酌み取ってくれ、説明をはじめた。
「すごく苦しそうに胸のあたりを押さえていて、すぐそれはなにかを探しているためだとわかりました。そこに落ちているタブレットケースありますよね、それを必死に探していたようです。錠剤を飲んだんですが、すぐには効かないらしくてずっとこの調子です。 ぼく、救急車呼んできましょうか」
それがいい、これは異常すぎる。
雑草がちらほらと顔をのぞかせる地面に白い錠剤とケースが乱雑に散らばっていた。
姪を見、それからもう一度わかい男を見上げて頷こうとした――そのとき。
姪がわたしの手をつかんだ。
「…呼んじゃ、だ、め……」
ぞっとするほど目にだけは強い光を宿し姪は首を振った。
だけどと返すと、姪は今度はさらに強く駄目と重ねた。
「一花ちゃん……」
「心配、ないから。だいじょぶ、だから。おねがい、呼ばないで」
荒い呼吸で、区切りながら、なんとか言い終えると姪は引きつった笑顔を向けた。
「ほんとうに大丈夫なのかい、一花ちゃ――」
「ちが……う」
掴む手に力をこめ、姪は言った。
わたしは戸惑った。
しかし、いまはあれこれと気にしている場合ではなかった。
それですこしでも苦しみがやわらいでくれるのなら――と、わたしはかまわず口にした。
「一花」