泣いたら、泣くから。
◆
「落ち着いたかい?」
「……うん。ごめん」
わたしたちは車の中にいた。
神社の近くにとめておいたわたしの車だ。
助手席の背にぐったりと体を預け、姪は深呼吸を繰り返す。
その横顔はだいぶ落ち着きを取り戻していた。ほっと安堵の息をつく。
「人込みに負けちゃったのかも。驚かせてごめんなさい」
「いいんだよ」
「ごめんなさい……」
さきほどからずっと姪は謝ってばかりだ。
一度もわたしのほうを見ない。
気にしているのだろうか、わたしの言ったことを。
……気にしないわけないか。
「持病でもあるのかい?」
「……まあそんなところかな。でも心配されるほどじゃないよ」
嘘だ。
直感した。
……そして確信した。
わたしの家で具合を悪くしたこと、きょう発作を起こしたこと。わたしといるとき二度も体調を崩すなどという偶然があるだろうか。
病気持ちであることは認めたが、心配されるほどじゃないというのはおそらく嘘だ。
姪が具合を悪くしたときの義姉春乃の様子を思い出す。
薬でおさまる軽い発作とはいえあなどれはしないが、それだけであそこまで取り乱すだろうか。顔を蒼白にして駆け戻ってくるなど、よっぽどだ。
姪は頻繁に体調を崩しているのではないだろうか。
姪は――一花は、
なにか重い病を抱えているのではないだろうか。
◆
「ありがとう。ここでいいよ」
「家の前まで行くよ。兄さんたちに顔出してなにがあったかちゃんと話しておかないと」
「それは駄目」
姪は即答した。
「どうして」
「父さんたちに叔父さんと行くって話してないの。だから駄目」
それもそうかと思った。
しかし直後、兄たちに嘘をついてわたしに会いに来たのかとわかると急に後ろめたさがこみあげた。
姪が車を降りる。頭の牡丹が揺れた。わたしもドアを開けて外に出る。