泣いたら、泣くから。

「歩けるかい?」
「すぐそこだもん、平気。 今日はありがとう。無理言ってごめんなさい」
「もう謝るのはいいよ。わたしも楽しかった」
「そう。なら、よかった」


 そう言うと笑い、姪は踵を返した。
 夜の道に下駄がカランと響いた。

 もう一つカランと鳴って、あっという間にあたりの空気に溶けて消えた。

 離れていく姪の後ろ姿に胸の奥がざわめいた。


 次の音が聞こえたとき――わたしは無意識のうちに動いていた。
 音が聞こえなくなる直前、わたしは姪の腕を掴んだ。
 

「一花っ……ちゃん」
「ど、どうしたの」


 心底驚いた顔で姪は振り返った。驚いたのはこっちも同じだ。


「……その、帰ったら電話くれないか」


 すると、わたしの言葉を聞いた姪はふっと微笑んだ。
 そして、くるりと体を半回転させて、わたしの胸に額を押し当て言った。





「ありがとう」




 
 見えなくなるまで姪を見送るとわたしは車に乗り込んだ。
 家に着くとほどなくして電話が鳴った。



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