泣いたら、泣くから。
◆ ◆
コールを二回と待たず叔父の声が受話器から聞こえた。
「着いたよ。いまは部屋にいる」
「そうか。よかった。 体のほうはもう……?」
「うん。なんともない。……けど」
まぶたが重い。
全身に力が入らない。
浴衣も脱がずにベッドに倒れ込んだ。
「けど? けどどうしたんだい」
慌てる声に心配の色を感じて嬉しさがこみあげた。
自然と頬が緩んでしまう。
もっと声を聞きたくて携帯に耳を押し当てた。すこし息が上がっているようだ。
「すこし、疲れたみたい。叔父さん平気?」
「わたしはなんともないよ」
「そっか。年下の私がこんなへたってるなんてなんか恥ずかしいなぁ。叔父さん若いね」
「君は、病気持ちなんだからしょうがないよ。……聞いてもいいかな」
「なに?」
「一花ちゃんの病気はなんていうんだい?」
ずきと胸の奥がかすかに痛みを持った。
心配されるのは嬉しい。
だけど。
……それだけはどうしても言いたくなかった。
「わかんない」
「え?」
間の抜けた返事がかえってきて思わずふいた。「だから、わからない」
「わからないって……」
「あんまり深く考えないで。なんともないの、ほんとに。学校だって普通に通ってるでしょ」
「それは、そうだけど」
「ね。だから深刻に思ってくれなくてもいいの。 それより叔父さん……」
「なんだい?」
「今日の話だけど――」
祭のとき叔父が言っていた内容はすべて正論だった。
それが当たり前のことだとは私にも痛いほどわかっていた。
叔父と姪は、結ばれていい関係ではない。
だけど私は叔父を好きになってしまった。
頭ではわかってても、心までは変えられなかった。
しかしとうとう叔父の胸の内を明かされてしまった。
「ちゃんと、わかったから。だけどね、もう少しだけ待って。ごめん、私まだ叔父さんのことが――――――」